朝日リョウ『死にがいを求めて生きているので』
祖母からもらったお小遣いで買った。
私の選考基準はジャケ買い、タイトルの面白さ、読んだことのある作家の別作品、聞いたことのある作家、愛らしいポップ…
まあ大抵は平置きしているものはあまりハズレが少ないから手に取る確率は高い。
娘を連れて行くと、そんなに吟味してられないから「ここはまあ出会いを求めて」と、直感でさっと手に取ることが増えた。
自分で言うのもなんだけど、書店員の思うツボ。良い顧客である。
今回はタイトルに惹かれた。
『死にがい』と来たか。
朝井リョウ、なにかで聞いたな〜と思い、最近はもっぱら1日で読める薄さの本ばかり手に取ってきた私にしては珍しく、そこそこの厚さの文庫本を手にした。
螺旋プロジェクト
最初はプロジェクトの概要を全く読んでなくて、今をときめく人気作家たちが章ごとにリレー形式で書いてるんだと思ってた。
作風が違うのによくここまで寄せてるなぁ!さすがプロ!と思ってしまった(恥)
同じモチーフを入れて時代設定だけを変えて書く。しかも出版はせーの、ではなくこれから月毎に出るらしい。
第二弾決定してるんだから、一気に出して欲しいわ(わがまま)
※ここからネタバレを含みます。見たくない人はブラウザバック※
書評も素晴らしかった。読み飛ばした人は是非読んで欲しい。平成という世をよく書き表していたと思う。
『ゆとり』の果てに得たものはなんだったのか?
心がズキリとした。
マイハートにヒビを入れた矢は三本ある。
1本目の矢:カテゴライズして攻撃することで自分を保つ
対立構造を生み出すことで、自分を浮き彫りにする。対立を未然に防ぐことでヒーローとしての役割を得る…
いたいた。こういうやつ。
何かに立ち向かってないと気が済まない雄介。実は私も好戦的なので共感生羞恥が働いた。
自分が攻撃サイドにいれば安心なのだ。攻撃している私は正義であり、そこに大義が生まれる。
これは、『生きがい』ならぬ『死にがい』のある戦い!民のために命を捧げよ!、の精神だ。
序列を気にする、人を下に見る、敵に立ち向かう。これらのことは、どうやら『平成病』らしい。
競争を徹底的に除かれていったラブ&ピースのなせる技。競争がなければ作ればええやん。というね。グサリ。
2本目の矢:目的と手段を履き違えてる。
与志樹の話だ。本作で一番ショックを受けたかもしれん。
担任の好むものを予測し、行動する。みんなが気を引きそうな話題を調べて話す。注目されるための話題を探してレイブで主張する。(レイブ=音楽に乗せて主に社会問題についての考えを発信する)
本当に心からやりたい、とは思ってない。全て周りの評価を軸にしているといった行動原理。
でもやっぱり興味があるわけでもないからその実、薄っぺらさが露見してしまう。
胸がほんとにキュッとなる。
親が喜びそうで、ある程度稼げて、自立できるという判断であんまり迷わず教育課程に進んだ私のこと??!
担任が喜びそうだと思って、タバコのポイ捨てやめろと作文を書いた私のこと?!!
3本目の矢:敵認定すると「やっぱりね」と思う。
レッテル貼り、しちゃうよね。
私なんかはベッタベタ貼られてますよ。
山族/海族は出逢えば衝突する?まあそうかもそれないけれど、雄介が山族のような振る舞いがあるとすぐ、「あいつはやっぱり山族なんだ」と蔑む気持ちは単なる思い込みなのか?遺伝レベルなのか?
実際のところ、自分自身で反芻してるうちに定着しちゃうよね。
NHKの番組で天狗猿が消化の良くない葉っぱを、細かくしきれず胃から口に戻してた時の映像が頭をよぎったよ。
おえっ。
総括
全体的になんだか爽やかな感じがするんだけど、ちょいちょい人の心を撃ち抜いてくるワザがあると思う。
朝井さん、おやめなすって…
これは死にがいのない殺し方ですよ。
螺旋プロジェクトとして、というより普通に単品でも面白いので是非。
みんなで死んでこ。