なんちゅBOX

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【ネタバレあり】『からくりからくさ』(梨木香歩著)〜読書記録

薄緑の素敵な表紙が目に止まり、手にとってみた。読了後、表紙のそれぞれの絵と内容に関連があるのだけど、結構面白い。読む前は一枚の絵画のようで、読後は連続して見えるのだから、人間って不思議。

 

作者の梨木香歩さん。私って人の名前本当に覚えられないので、代表作が「西の魔女が死んだ」と知ってびっくり。ちょっと作風変わったのかな?

西の魔女を読んだ時と感じが違う気がする。

 

てしごと、と聞いて

内容を読み始めてちょっと運命を感じてしまった。なぜかというと、主人公をはじめ、下宿する四人の女性たちは、全員が手仕事や何か起源的なものを求めて創り出すことを生き甲斐としている人たちだ。天然の染料を使って染物をする主人公や機織りをする人。

そう。機織り機をなんちゅは買ったばかりなのである。

懲りない女だ。ハンドメイド用品で一室が埋まっているというのに。

でも、こういう読書の中で生きている登場人物の手の動きや主義主張、そして緻密な取材による知識に心躍った。

 

まあ、これは私がハンドメイドで何か物を作り出すことに悦を感じる人間だから共感した部分だろう。

 

感想(ネタバレ)

正直なところ、ぐちゃぐちゃのドロドロに煮詰めた感じだなという感想を抱いた。宿命、前世、東欧と亜細亜の共通点とその神秘あたりをなんでもかんでも。必然に必然を重ね、糸と糸がこんがらがったような。

ちょっとやりすぎでは?というぐらいである。

 

リカさんという人形を通じたドラマが展開するのだが、まあなんというか。何度も言うけど出来過ぎじゃない?という感じ。

人形に魂が宿る的な話で終了かと思いきや、下宿している女二人が実は親戚同士だったり、その人形はその二人の先祖がお妾と正妻の子の両方に同じ人形が渡されたから親戚同士であることを知ったり。

 

人形の作者が元々は面打ちで、面打ちが作っていない「竜女」(能に詳しくなさすぎて飛ばしてしまった)が、リカさんがタバコの火に酔って燃えることで完成した=浄土に返った=タバコをつけた芸術家の死にかけ父の本望となり、死んじゃったり。

 

お前何言ってんの?って思うよね。私もそう思う。

だって繋がりすぎてどっから紐解いたら良いかってわからないもの。

こういう周到な準備のされた作品ってサスペンスに多いけど、クライマックスは探偵ポジションの人がトリックを見抜いて犯人を絞るところだけでしょ?

でもこの作品ってどこをクライマックスととるかで意味合いがかなり変わると思う。

もちろん本当に本当の終盤にリカさんが燃えるところ、ととるのが小説のあるべき姿であるし、自然ではあるんだけど。

でも、私はそう感じなかった。

どこがクライマックス?と言われると私も首を傾げる。でも、リカさんの燃えるシーンでドキドキと心動いたものの、事件は起きすぎだし他の示唆的なシーンで終えたとしても全然満足できると思ってしまうの。

 

私が印象に残っているシーンの中で、紀子の機織りのシーンがある。付き合っていた男が、紀子と同居している下宿の外国人の女を妊娠させてしまったということを知って、黒々した気持ちを、真っ黒な糸で自分の作品に織り込んでいくところ。

ぎちぎちに経糸を張って、家中の人たちが機織りの音を聞くと陰鬱な気分になってしまうぐらい、何とも言い難い感情を込めた機織りをする。今までは機織りの音をみんなで囲んでいたというのに。

実際には同居人を恨んではないし、恋人の気持ちが離れていることは気づいていたとしても酷いよなあ。とは思うが。

 

私が言いたいことはそこではなくて笑

機織りの中で横糸を通していって布ができてくる。なんとかっていう劇薬を使って喪に服す時に使うような闇より深い黒を主人公に要求し、染めさせる(しかも、自然破壊に繋がるから主人公はそういった劇薬を用いた染色を死ぬほど嫌がっているのを知っているにも関わらず。)

今までさまざまな色合いの積み重ねがあり、一つの作品になるのに、そこに闇のような黒が混じることの恐ろしさ。

 

そこには織り手の生活が、人生が織り込まれるのだ。

 

自分のルーツは?

機織りに対してのテーマは色々あると感じられた。

先祖から伝わっている織り方。何かルーツを求めたくなるような気持ちになった。

 

だから、来年御年85になる祖母に尋ねた。

「おばあちゃんの家って機織りしてた?」って。

そしたら、「お蚕飼ってたよ〜。」って。そこからズルズルと兄弟の話をしてくれた。

ばあちゃん8人兄弟だと認識していたのに、実際は9人だったことが判明したり、本家の生まれで、周辺に住んでいる分家と風呂を炊く当番を決めて、お風呂をもらいにいくんだって。

 

祖母は電話越しにも明るい声で、今まさに目の前にその光景が繰り広げられるような調子で話してくれた。

 

その光景が私にも織り込まれているのだという感触がして、私の飼っている悲しいモンスターもにっこりほっこりしちゃったよね。

 

ルーツについて考えさせてくれる、それだけでも十分価値のある作品だった。