なんちゅBOX

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【感想】蒼色の大地【ネタバレあり】

読みたかったのに心とスケジュール的な余裕が読めなくて、中断していた螺旋プロジェクトの本。

同じ設定で今をときめく作家様たちが時代や登場人物を変えて書くプロジェクト。

 

時代描写が欲しい!!!

伊坂幸太郎朝井リョウの作品はすでに読んでいた。

 

彼らは昭和と平成で比較的読みやすかったと思う。

 

今回は明治。

もちろん海と山の設定はあるけど、伊坂氏と朝井氏に比べると「海」「山」という設定が露骨であり、住んでいる環境がそもそも違うので「螺旋プロジェクト」の元々の設定を知らない人には分かりやすいかもしれない。

 

少しだけ残念なのは歴史的な背景というのがあんまりハッキリ描かれていないところだ。

私自身が時代小説が大好きなのもあるけど、時代の様相を映し出す部分が「山縣有朋」の存在ぐらいで、街の様子はどうだとかそろそろ戦争に突入しそうだという部分が少しと、ぶっちゃけゆるい。

 

もちろんフィクションだからだけどさ。

 

だけどもうちょっと時代背景を丁寧になぞる部分があった方がリアリティがあって良いよなとも思う。

あとは、海賊である海族と対峙するために、山神という海軍の司令長官が山族だというのも少し変だなって思った。陸軍ちゃうんかーいって。

まあ陸軍だったら戦艦率いて島を攻め込めないから仕方ないし、山神たちが海族殲滅!という目標を掲げて軍にいるわけだからね。

 

欲を言えば「村上海賊の娘」のような史実に近い描写が欲しかった。

 

血に抗えるイレギュラー

 

今回の作品で他の2名より色濃く出ていた設定が「血の共鳴」

他の2作の海族と山族は、なんだかんだ対立してしまう。

だけど主人公たちはできるだけ、争いを避けようと努めているけど…という流れが共通してあった。

 

今作は肉親を殺される、伴侶に酷い目を受ける、酷い差別を受けるといった生育環境からすでに対立するような設定だ。

だからこそ、親の仇ィ!と本人には変えようのない事実、過去、そして憎しみがある。

 

それなのに灯と新太郎及び鈴には生理的な拒否反応が発生する。

しかし、そこから争いに発展せずに、むしろ歩み寄ろうという姿勢がある。

そこには幼少期に一緒に過ごしたというイレギュラーが引き起こした一種のバグが作用しているようだ。

 

一族が一緒にいたら、連帯感が出てくるらしい。

もちろん血族だからというのもある。

だけど、そういった理性の範疇を超えて、生物学的にあらかじめ備えられたかのような「仲間意識」、「絆」(この言葉嫌い)が濃くなっていく。

 

だから海龍は実の母であることを灯には打ち明けず、兄である蒼狼と「海族としての自覚」が芽生えることを待っていた、というのだ。

 

新太郎と灯には、生理的な嫌悪感があったが、面と向かって何かの恩返しを受けたわけでもないので、「別種族への反駁」が作用した、というのか。

 

「海族山族ハーフ」の役割

 

今回出てきた観測者である沙羅の不思議パワーにも驚いた。

ちょっとした登場だったけど、「観測」というよりどちらかといえば「仲介者」として物語を動かしているような気がする。

あれ?伊坂氏のときの観測者はパワーバランスの崩壊を防ぐ役割じゃなかった????

 

もうすでに忘れかけてるのでもう一度読むか。

この辺は厳密に設定されておらず、それぞれの作家に任されているところなのかな?

 

タツムリ

 

タツムリは螺旋プロジェクトの要。

そもそも螺旋って何かって、時代は繰り返されるっていう象徴でしかないと思っていたけど、

今回の二匹のカタツムリは、鈴と灯が寄り添っていける未来への渇望だ。

 

しかし、その螺旋は交わりあることは決してない。

鈴の死を持ってその悲しい予見は現実のものとなってしまったけれど。

 

山族と海族それぞれの因果、という捉えもできるのかな。

どこに終着するでもなく、とにかくぐるぐると円を描き続けるような?

そんな印象を受けました。

審議は受け付ける。

 

次の作家も初めて読むから楽しみだなああああああああ!!!!!!!!!!

みんなも読もうぜ!!!!!!!!